男旅1

「今日、何してました?」
三連休の初日だが、友人は出社した。 僕はというと、将棋チャンネルの『素人VS棋士ハンデ戦を腐った目で追っかけていただけの土曜日だった。  
「うーん。 タバコを買いに行ったかな〜」
「それだけっすか?」
「それだけ」

笑っていいともが見れる特別な日を『ハッピーマンデー』と呼ぶ彼と、犬の散歩を『予定』に加えてもスケジュール帳にスペースがあまる僕。 カレンダーの数字が黒くなるのを待つだけの三連休を避けたい二人は、「富士山よりむこう(西)がわに行ったことないんです」という、友人の希望をかなえるべくとりあえず車を走らせた。 夜の10時ともなると、三連休とはいえ車はまばらだ。
彼女がいないのはともかく、休みのあいだ一歩も家を出ないとなると人生の敗北者みたいな、そんな錯覚に襲われる。 が、深夜のファミレスで地図を広げている二人が、何かに勝利した姿には見えない。 
静岡県のようにも見えるが、長野、もしくは山梨? 道が一本かろうじて伸びている地点を指差す彼。 温泉マークに反応した僕はGOサインを出す。 『なんとなく西』から、的確なゴールを設定した二人は、車に戻り、また元のように「会社にいる可愛い子」の話を始めた。 
去年別れた彼女をいまだにひきずってる彼に、つまらない恋話をしゃべらせたら右に出るものはいない。 どれほど引きずっているのか、いまだに理解しきれない。 というのも、社内の女の子に片思いしているのもまた事実だからだ。 片思いすらさせてもらえないほど女っ気ないくせに、『好きな人に想いがまったく伝わらない』という悩みをからかっていた。 
何も生み出さない会話が2時間続き、対向車とすれ違えないような細い道をひたすら進み、目的地近くの空き地で眠りについた。 狭い車内、男と二人で寝るのは19のとき以来だった。


つづく