05/20

「うん。でもね、彼女はちょくちょく会いに行ってるらしいよ」 
くわしい人間から最新情報を聞き、僕と藤川さんは驚くとともに胸をなでおろしました。
『血は水よりも濃い』
血縁関係を表わすこの言葉どうり、DNAで繋がれた深い愛が長期間にわたる喧嘩を消しつつあるようです。
彼女は自分の旦那が、実の父親を憎しむ姿に哀れみすら感じていたのです。 社内結婚でしたが付き合いはじめる前から、『なぜ実の親子なのに分かり合おうとしないのだろうか?』と、彼女はおせっかい染みたことを口出していました。 おせっかいが過ぎて、なぜか彼女と彼がケンカするなんてことも…。 
僕も藤川さんもこの二人を昔から知っているのですが、人通り激しい道端で口論したり、オフィスの中で平手打ちやら、そんなエピソードは数え切れないほどあります。 
ごく普通の中流階級の、ごくごく円満な家庭で育った彼女には、複雑な関わりあいをもつ二人の仲を取り持つことは簡単なことではないし、それは彼女自身もよく理解していました。  
子はかすがい。 新婚の二人に子供が生まれ、さすがに初孫を見たくないおじいちゃんはおらず、彼女とその義父であるところの海原雄山の距離は縮んでるようで安心しました。 士郎は相変わらず雄山のことをキチンと理解できていないみたいです。