03/07

弟子の佐藤君が、「大丈夫ですか?」と注意を促した。 
僕は3っつ年上なので、「平気だっつーの。 俺をなめんな」と先輩面してしまいましたが、大人になるということは、年下の同性の言葉を素直に受け止められることなのだと、後々に気づきました。
会社のトイレには紙がありません。 個室に備え付けの蛇口とホースを利用するか、マイペーパー持参で入室することになります。 僕の手に握られたトイレットペーパーの細さに、彼は冒頭の言葉を投げたのですが、バカにされているような錯覚に陥り、無視しました。 お前は俺のを見たことがあるのか、と。
しかし、心から僕を心配してくれたからこそ、あのような言葉をかけてくださったと思いますし、本当にギリギリでした。 ついに蛇口を利用するときがきたのか。 それくらい、切羽詰まっていました。 
目分量で、紙が足りているかどうかを見極める技術に関し、僕は佐藤君より劣っている。 年じゃない。 回数でもない。 彼は、持って生まれた天性で、僕の危険を察知することができ、僕にはその才が無かった。  
念入りに手を荒い、自分の机に戻り、「すっげー、ギリギリだった」と彼に報告した。 心の中では、『ごめんなさい。あなたの忠告を聞くべきでした。』と謝っている。 いや、屈服している。 なんだか、今日も彼の横顔がりりしい。 
彼は、年が下かもしれないが、トイレットペーパーの見極めと、風俗を愉しむ技術は僕よりも優れている。 
 
入室してから出てくるまでが、僕よりも15分も長い。