03/18

年寄りは死にやすいのが道理とはいえ、祖父母3人が次々と去り、今では死の淵から3回復活した不死鳥、クスリ屋を営むババアだけが生存している。 誰が残るか、勝負は下駄を履くまで分からない。 「あのクスリ屋には仙豆がある」と孫のあいだでは噂された。 担当医がブラックジャックだったかもしれない。 そういう難しい手術を乗り越えてきた。 
僕の母親を産み落とした瞬間、4頭立てにも関わらず100倍超えのオッズを記録した。 死の宣告を覆し、今も元気に走り回る節子さんは、どこで憶えたか知らないが西洋式のお出迎えをしてくれる。 むやみやたらに抱きついてくるので、殺さない程度に加減して手を回す。 体内に眠る隠された力を極限まで引き上げてもらう儀式と、割り切って抱きしめる儀式。 あながちあなどれないのは、節子の母親が最近まで生きていたからだ。 
自分のオリジナル臓器がいくつ残ってるのか知らないけど、好奇心を失っていないため、自分の体が許さないレベルの行動を取ろうしてしまう節子。 帰りの体力を残しておかないので、どこへ行くにもおぶってやる人間が付き添うことになる。 彼女が海外に行きたいと言えば、文字通り親族ババ抜き大会が開かれるのである。 
マレーシアに行くと報告したとき、
「なんでそんなところに行ってまで仕事するかねー。 会社辞めちゃいなさい」
と言った彼女に、親族総ツッコミが走った。 無断で台湾行きの航空券を買っていたことが、この前日発覚したためだ。 しっかり二人分。 今回ババを引いたのは、節子の養女の妹の旦那さんだった。 外枠にいてもしっかり当るらしい。 
直の二親等はかなり当りやすそうだし、困ったことに最近マレーシアに興味を示してると報告が入った。 部屋の隅に積みっぱなしの新聞から、市内で起きた殺人事件の記事を切り抜いて母親に送った。 
二十歳から死と隣り合わせだった節子に、このスクラップでどれだけ恐怖を植え付けられるだろうか? 
 
気づいたら、イラクの記事も混ぜていた。 老婆への老婆心だ。